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パラマスッカ・チャクラサンヴァラ父母仏 2009年10月12日更新

パラマスッカ・チャクラサンヴァラ父母仏

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>パラマスッカ・チャクラサンヴァラ父母仏

チベット中央部
14世紀後半
綿布着色
80×73.7cm
個人蔵
力強い威厳と精密な細部で、現存するチベット仏教美術の古い作例の内で最も壮麗で大きなタンカのひとつである。これはタントラの守り仏サンヴァラをあらわしたものである。サンヴァラの瑜伽の経典は、光明心の修得を目的とした内的な修行に焦点を絞っている。このタントラは、チベットの四宗派すべてで学ばれているが、とりわけカギュ派、サキャ派、ゲルク派で重視されている。このタンカの根底となる観想の正確なスタイルを厳密化するのは困難である。ターラー・トゥルク尊者によれば、この曼荼羅は、ヴァジュラダラ(執金剛:この曼荼羅の主尊をあらわす)が、カイラス山からイーシュヴァラ(大自在天:シヴァ)を調伏するために変化した姿をあらわす。画面下方の主尊の下の尊像の列の中心には、父尊が暗青色で緑色の神妃を伴い、双方とも八臂のシヴァとその妃と思われる尊像が配される。その両側に合計十二尊(他のものでは通常六十二尊)の集団があり、主尊の母尊のほうは、両足を父尊の腰に巻き付けるのが通常の特徴である。明らかにたくさんの象徴的顕現をあらわした、父母仏である。覚りの境地における智慧(母)と慈悲(父)との同質性と異質性との複雑な関係のように、どちらの尊像も独尊でも父母仏でもあらわされる。
 この素晴らしい絵画の重々しく精力的な姿と観者は対面する。戦闘の構えをとって、サンヴァラは、豊満な赤色の妃ヴァジュラヴァーラーヒーを抱擁する。12本の手には、無明と悪に対する勝利を象徴するさまざまな持物を持っている。妃は、宝石で飾られた五髑髏冠を付け、宝髻を結い、骨で出来た首飾り、腕輪、足輪を着け、ほとんど無いに等しい骨の腰衣をつける。飾りの付いた腰帯がかすかにみえる。歓喜して一心に夫を見つめ、首を後ろにそらし電撃的なオーラを高めている。右腕を押し上げて、金剛包丁をつかむ。左腕をサンヴァラの首にしっかりと巻き付けており、髑髏杯を持った左手は右肩まできている。四面あり、青(正面)・黄(右)・赤(背面)・緑(左)で、四仏の智慧を象徴している。赤く血走った三眠は激しく見据える。口を開けて巻き上げた舌と四つの小さな牙を出す。瑜伽観想では、修行者は曼荼羅宮殿の中央に立つ主尊の周囲を回る。
 チャクラサンヴァラのそれぞれの手の持物は、明確に描かれている。左右第一手で妃を抱擁し、金剛杵と金剛鈴を持ち両腕を交叉して金剛吽迦羅印をとる。第二手は、両手で無明の狂象の生皮を背中で広げており、赤紫色に織目文様で描かれ、金線で縁取る。妃の腰部にある両手は、槍を垂直に持つ。右の槍先は三鈷杵で、左は人頭が風化する三段階をあらわしたものと金剛杵の付いたカトゥヴァンガ杖である。
 残りの右手は、それぞれダマル太鼓、戦斧、金剛包丁を持ち、残りの左手は四面梵天の首、悪魔の血を満たした髑髏杯、羂索をそれぞれ持つ。この十二手は、十二縁起を象徴し、それぞれの持物は、我執に由来する特定の障害に打ち勝つ体験を象徴する。幅広の肩から足下まで円く囲むように、長い生首の付いた首飾りを着け、我執を征服したことをあらわす。より微細な小さい髑髏を数珠つなぎにした首飾りが妃の首にかけられる。虎皮の腰衣の縛った部分を内股の間に広げている。
 尊像の背後には深紅のオーラの火焔が立ちのぼり、金色の葉のような様式化された火焔の形が火焔の周縁部にあらわされる。4体の忿怒尊の女尊が曼荼羅宮殿の大きな天の環の四隅に描かれている。右足元に青ダーキニー、緑ラーマーが左足元に、左肩上に赤カンダローハー、そして右肩上にルーピニーがあらわされる。四つの水瓶が植物文で装飾された薄暗い空に浮かぶ。そして小さい花が光背の暗青色の周縁部の木の葉形の火焔の間にあらわされる。サンヴァラのずんぐりとした赤い足裏の脚の下には、自らの化身を踏みつける。踏みつけられているのは、四背赤色の女尊カーララートりと四?青色の男尊バイラヴァである。これは、自己中心主義の最たる姿、凡庸さの神々しい姿でさえも、サンヴァラが征服したことをあらわしている。
広い蓮台は蓮弁を交互に五色で彩色し、細く明快でなめらかで器用な黒線で縁取られ、このタンカの線的な様式を特徴づける。主尊の父母仏の金と宝石で飾られた装飾は、1227年以前の制作とみられるハラホトのサンヴァラよりも豪華であり、15世紀第2四半期のギャンツェのクンブム寺の様式に先行するものである。彩色は平面的で立体的な表現はほんのわずかしかなく、大胆で濃厚で明確である。  サンヴァラの系譜に関わる沢山の尊像が、中心の父母仏と四女尊の周囲に配される。その内的な至福の主尊の周囲の区域は、意密輸で青色の十六尊が八対の父母仏としてあらわされる。次の区域は、口密輸で八対の赤色の父母仏があらわされる。外の区域は、身密輸であり、八対の白い父母仏がいる。この三密輸(青と赤と白)の外に五つの区域があり、三昧耶輸、重要な2色の忿怒尊が配されている。これらの尊像はみな、壮麗に描かれており、類似したくっきりとした赤い光背が青い地に置かれる。この絵の画面を赤色が占めており、その赤い大きな光背の中に、青いサンヴァラの像が赤色の智慧の妃とともに中心的な位置に置かれている。
 この絵は、14世紀のネパール仏教美術の様式的伝統を利用しているものの、引き締まった堅い線によって力強い量感と活発な力強さとが共存しているチベットのものである。劇的で緊迫感のある形はチベットのものに特徴的である。そのモニュメンタルなスケールは、トゥッチが記すように、15世紀前期のギャンツェのクンブム寺の主だった壁画にみられるものに関連づけられる。しかしツィンマーマン・コレクションの14世紀後半の赤色ヤマーりのタンカと明らかな様式的類似があることから、この作品も、それに前後する時期のほうにより年代が近いと思われる。実際に本作品は、その特徴的なスタイルが関連づけられる赤色ヤマーりやその他のタンカと同じ様式の画派か同じ僧院のものと思われる。クンガ・ニンポのような初期のサキャ派の高僧の存在がこのようなサキャ派画壇を支持したのであろう。この絵は、15世紀第2四半期のギャンツェの壁画よりも古い14世紀後期のモニュメンタルな作品として、非常に重要であり、また14世紀後半のサキャ派と関連する明らかに重要な芸術様式と定義づけられるものである。出所:天空の秘宝チベット密教美術展
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