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月称 2009年10月2日更新

月称

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>月称

18世紀前半
青銅:彫金、金泥、彩色
高19.1cm
エルミタージュ美術館、サンクトぺテルブルク
この像にはいくつかの問題があり、その大部分にはふさわしい解答がないままである。そもそも、台座の周りの蓮華の図案は、清代の彫刻と関係している。このことは、清代に典型的な花が月称の衣に打ち出されていることで裏付けられている。均等な数の花弁(この場合には18)もまた、清代初頭の仏像に見いだされる。当惑させる所は、台座の背後にある中央の花弁の大きさである。この18という数には、何か象徴的、あるいは図像的な意味があるのであろうか。これは、何らかの点で、彫刻の中の特定の尊格と関係しているのであろうか。あるいは、ある美術学派か、工房の彫刻と関係しているだけなのだろうか。これらすべての問題は、まだ解決されているわけではないので、ここではこうした問題を指摘するにとどめておこう。
 別の問題は、中国語の銘があることである。いくつかの文字が、月称の右足の後ろの台座の中に彫られている。左から最初の文字は、中心に点のある三角形であり、次に中国語の三があり、次に2本の垂直な平行線、次に二と五がある。これらの文字は、この彫刻の中国起源を裏付けている。これらの文字は、この像を制作した仏師によって彫られたことは、ほとんど確実である(それらは、鋳造する以前の粘土の像に鋳込まれてはいないが、鋳造の後、底が封印される開眼の前に、金属にかなり深く彫られている)。しかし、この銘の意味するところは、はっきりしていない。それは、薬師仏の曼荼羅のように、セットの彫刻の数を意味しているのであろうか。もしそうであるなら、このセットはどれであろうか。あるいは、この銘は、ある特定の時代に仏師(あるいは工房)で生み出された像の数を示しているのであろうか。不幸にも、こうした問題には、ふさわしい解答は与えられていない。
 もうひとつの問題は、この像の主題に関係している。蓮華の花弁の上の台座の横と後ろに彫られたチベット語の銘がある。そこには、“dpa la ldanzla grags la na mo (吉祥なる月称に帰命す)"と書かれている。この銘には、間違いがある。 “dpala ldan"ではなく、“dpal ldan"であるべきである。それゆえ、この彫刻は、ラダク(Zla‐grags)、あるいはラワ・ダクパ(Zla-ba grags-pa)、すなわち月称の像である。彼は、いわゆる三本線のあるアテイーシャの帽子(jo zhva gling gsum)をかぶっている。トゥッチが模写したスケッチによれば、この帽子は、もう一つ、僧院長(mkhan・po)や転生ラマ(sprul-sku)、あるいは教義を解説している間のニンマ派のラマだけがかぶっているパドマサンバヴア(Pad-ma-sam-zhwa)の帽子を思い出させる。彼の手は、いわゆる論義の位置にある。
 西洋の学者によれば、チベット仏教のパンテオンの中には、2人の月称がいる。もちろん、チベット人は、その両者を同一人物と考えている。最初のものは、6世紀に活躍したナーランダの僧院長であった、インド大乗仏教の大学僧である。ワッデルは、「ラマたちによって最も崇拝されたインド大乗仏教の聖者」の中に、月称を挙げている。この月称は、マハーパンディタ、大学僧である。もうひとりの月称は、八十四(または八十五)大成就者のひとりであり、トウッチによれば、「だいたい9世紀末期頃に」活躍しており、文殊の生まれ変わりと考えられている。チベットには、国家を荘厳する学僧のセットの中に無数の月称がいたが、西洋に知られている月称像は四つある。最初のものは、三百尊のパンテオンの中に含まれている。その像は、普通の僧侶の帽子をかぶり、左手は左膝の上にあり、右手は安慰印(vitarkamudra)で、胸に挙げている。その像は、一連のインドの祖師の初めに置かれており、この月称は、おそらくインドの学僧であろう。
 三百六十尊のパンテオンの中に別の月称が見いだされる。この描写は、帽子がアティーシャ型の学僧の帽子ではないが、エルミタージュの彫刻に近い。この月称も、インドの学僧の中に配置されるが、その顔にはいくぶんか怒っている表情が見られ、大成就者の中に配置した方がいいかもしれない。
 よく知られているトニー・シュミットの本の大成就者月称の像には、エルミタージュの彫刻と共通する点は何もない。その像は、2匹の蛇と一緒に描かれている。その頭は、織物で覆われており、髭を生やし、継ぎあてのある僧衣をまとっている。もう一つの大成就者の像が、ラサ版の八千頌般若に複製されている。この4番目の月称の肖像は、アティーシャ型の学僧の帽子をかぶってはいるが、右手に本を持ち、左手で安慰印をしている。 エルミタージュの彫刻の図像は、多くの点で、上で言及した像のどれとも一致しておらず、2人の月称、すなわち大学僧か、大成就者かのうちのいずれがここに示されているかを決定することは難しい。
一方では、その顔の緊張している表情(清代の彫刻では珍しい)からは、大成就者の像に似つかわしい。他方では、月称の手の論義の位置からは、大学僧の像と矛盾しない。 出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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