鹿角     2008年07月17日（木）更新

鹿角製漆塗り
長約50cm
　これは東室と中室から1件ずつ出土したうちの、東室からの分で、元来は木製漆塗りの鹿の頭部に差しこまれていたものである。二本そろっており、ともに本物の鹿の角で、これに朱漆地に黒漆を用いて、鋸歯紋などの紋様をあらわしている。角の先などにわずかな欠損がみられるが、その状態はすこぶるよい。
素材としてはいたって簡単に手にはいりやすく、そしてまた、あつかいやすいはずの木をここで用いずに、わざわざ本物の鹿の角を素地につかい、全面に漆を塗りかけて、せっかくの鹿角を隠してしまっているところに興味をおぼえるが、それにもまして、つよい関心をもつことは、この曽侯乙墓から、青銅製ではあるが、鹿角を頭に項いた霊鳥が出土していることである。そして、この霊鳥はこの墓から発見された数多くの副葬品のうちでも、もっとも代表的なもののひとつとしてうけとめられているものである。鹿角について言えば、それを頭部や背中に挿入したいわゆる鎮墓獣のような作品が、これまで、湖北省や河南省を中心とした周辺の地域からしばしば出土しており、しかも、それらが春秋晩期から戦国時代に比定される墓から発見されていることから、当時、いかに鹿角を用いることが流行していたかわかるであろう。出所：『曾侯乙墓』 特別展 日中国交正常化20周年記念